私のこの一穴

肩こり・美容・痛みの緩和治療など、様々な症状に対応

みなさんが知らないツボ刺激の効果について、鍼灸師がご紹介します。

蠡溝穴(れいこうけつ)

平田 耕一

数十分逃げ回ったと思う。四十数年前、兄の鍼治療からである。当時は、鍼治療といっても所詮「はりがね?」を人体に刺す野蛮な治療であり、それで「病」が治るなど思ってもみなかった。兄に薦められて「鍼灸(しんきゅう)」と「柔整(じゅうせい)」の道に進んだ。

鍼灸は古典(東洋医学)の勉強が重要なので、しっかり勉強をしなさいと会うたびに言われた。勉強していくうちに、柔整の治療よりも鍼灸治療は、いわゆる「腕」があれば、どんな病気でも治せるということがわかり、鍼灸(東洋医学)に傾倒していった。

その兄が数年前、「前立腺がん」に罹患した。PSA15.722ng/ml、(PSA:前立腺特異抗原の略で、前立腺腫瘍マーカー、正常値0~4ng/ml.10 ng/ml以上は前立腺がんが濃厚とされる)針生検9か所による病理検査でもすべてにがん組織があった。StageC(他の臓器への転移はないが、がんが前立腺の皮膜を超えて外にでている状態)である。西洋医学では、手術・ホルモン療法・放射線治療不可とのことであった。

鍼灸治療を開始した。東洋医学的診察では、「腎」と「肝」の反応が現れており、とりわけ肝経上の「蠡溝穴(れいこうけつ)」(下腿前内側、脛骨内側面の中央、内果尖の上方5横指)が著明であった。本穴は、足厥陰肝経(あしけついんかんけい)の十五絡穴(らくけつ)であり、〈『霊枢(れいすう)』経脈篇(けいみゃくへん)〉の十五絡病証には、「其の病、気逆(きぎゃく)するときは則(すなわ)ち睾(こう)(は)れ卒疝(そつせん)す(睾丸が腫れ疝痛(せんつう)を起こす)。実するときは則ち挺長(ていちょう)す(異常勃起を起こす)。虚するときは則ち暴痒(ぼうよう)す(陰部の激しい痒み)。これを別れる所に取るなり(蠡溝穴を取穴する)」とある。また歴代の医家は「疝(せん)」としてとらえ、生殖器病全体を指す。つまりこの十五絡の異常は、生殖器疾患病症を示唆している。

そこで、この蠡溝穴を主穴にして治療をし、3カ月程でPSA値は1.9ng/mlの正常値まで回復し、主症状も改善した。現在すこぶる健康であるが、「未病治療」として週2回の鍼治療をおこなっている。

鍼灸の道を薦めてくれ、学費の援助もしてくれた兄に少し恩返しができた、私の「一穴」である。